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文・著作権 鈴木勝好(洋傘タイムズ)

Y O U G A S A * T I M E S * O N L I N E
柄は「中棒」それとも「手元」?
―もとは一心同体の中―




◆手元(ハンドル)は人間の顔・・・・・

洋傘を構成する部位を大別すると、布地を張った覆いの部分(和傘では、これを"傘の 
羽"ともいう)、その布地を支える骨組(フレーム・親骨と受け骨)、骨組みを固定 
し、かつ傘の開閉を作動させる中棒(シャフト)、使用時に保持するための手元(ハ 
ンドル)という四つに分けられる。


 以前、傘作りで定評のあったあるご長老から、"良い傘を作るに当っての心がけ"を 
伺ったことがある。その時、ご長老は、傘の各部位を人間の姿に例えて話してくれ 
た。つまり、手元は顔(顔部)、玉留は襟元、生地は衣服、石突は足元であ 
る・・・・・と。顔である手元は、その人(傘)の特徴や人柄が端的に表れる。玉留 
は男ならネクタイ、女性ならネックレスなどの役目、生地は文字通り衣装で素材から 
デザイン(図柄)カラーなどの統一感、そして足元の履物(石突)・・・・・これら 
が一体となって調和してこそ、その人のファッションが心地よく表現でき、良い傘と 
しての条件が整うことになる・・・・・と。


 こうしたイメージで捉えると、自分用の傘を選ぶ(購入する)時も、より楽しく、 
より吟味するようになり、それだけ所有観が高まり、安易に忘れ物をすることも少な 
くなるのではなかろうか。


なお、近年は、手元や露先のデザイン(素材・構造)との関係もあって、玉留機能の 
ない傘が多いように見受けられるが、これは何となく襟元の締まりが無いような感じ 
がしないでもない。言うならば、男性にノーネクタイ派が増えたような現象とでもい 
えようか・・・・・


◆一体だった中棒(シャフト)と手元(ハンドル)


人との話の中で「傘の柄(え)が・・・・・」という言葉が出てきた場合、この柄は 
「手元」なのか「中棒」のことなのか、ちょっと迷うことがある。辞書で柄(え)の 
解説をみると、「手で持つために、巻物に取り付けた棒状の部分。把手」とある。


 ちなみに中棒の英字「シャフト(shaft)」も共に「巻物に取り付けた、手で持つた 
めの棒状の物」という意味合いを共有している。傘の始まりにあっては、洋の東西と 
も、傘にかなり長細い棒を差込んだ形のものであった。即ち、中棒と手元は分化して 
おらず、柄(え)という一体の棒状のものであった。その延長線上にあって、現在に 
おいて「柄(え)」といえば、なんとなく中棒と手元が混在したようなイメージが誘 
発されるのかもしれない。(※和傘は原則として柄だけで、中棒と手元の区別は特に 
ない。)



◆「延べの棒」が中棒と手元に分化

 明治維新の文明開化にっかって、舶来品である西洋傘は蝙蝠傘の名で大いに受け入 
れられることになった。ところで、『明治事物起源』の「蝙蝠傘の始」という項目中 
に、「当時の蝙蝠傘の図をみれば、いずれもその柄(え)、下図の如くにて他の形を 
見ず」とあり、手元部がL字型に曲がってはいるが、中棒とストレートな一本棒であ 
ったことが知られる。当時の川柳に「直な御世傘の柄だけ曲って居」とある。

 このように、中棒と手元が一本の木から成っているものを、当時は「延べの木柄 
(木棒)」「延べの棒」あるいは単に「延べ」などと呼んでいた。


さて、時代の変化する趣向は、手元に美を創造することを求め、国産品では桜、楓、 
椿、山椒、などなどの自然木の彫刻や塗り物から、象牙・水牛の角・蝶貝や金銀の細 
工物など精巧を極めた高級品まで豊富に展開された。


 一方、延べの木柄(木棒)が独立して国内の業となるのは明治26年(1893)頃から 
だが、需要の季節的変動から繁閑の差が大きく、商売では不安定な状態にあった。金 
柄(かなえ)(金属製の中棒)が一般的に市場に出回るようになるのは、大正初め頃 
からで、先ず男物に使われた。女物の金柄は「ホワイト骨」(総ホワイトまたは銀金 
(ぎんがね)とも)が昭和5〜6年(1930〜31)頃から試作され、同13〜14年(1938〜 
39)頃に至って大流行をみた。


 しかし、次第に戦時体制が進むにつれて、金属(鉄)の骨や中棒を使うことに反省の 
気運が生まれ、再び「木棒」が再評価される時代となった。昭和15〜16年(1939〜40) 
頃になると、金棒業者は「材料の増配給」を願い、また木棒業者は「国策路線に沿 
う」と主張し、中棒の「金」と「木」を巡って当局への陳情競争のような現象を呈し 
たという。




 ※国語辞典には「手元(てもと)」の項はあるが、「中棒(なかぼう)」は挙げられて 
いないから、中棒という言葉は業界用語に限られるといえよう。一般の人が、中棒を 
指して「柄」というのは、もっともなことといえるかもしれない。

 【てもと。手許・手元】
  1・手の届くあたり。身の回り・手回り。
  2・手に握る部分、手に持つ部分。
  3・何かをするときの手の動き、手つき、手なみ、腕前、技量。
  4・(相手の手なみが見たいの意から)酒をすいすめられた時、逆に相手にすすめ 
る語。
  5・暮らし向き、生計、生活
  6・箸のこと。




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